杉のお話

杉無くして日本の木造建築はありえない


日本を代表する木材と言えば、いい意味でも悪い意味でも多くの人が『杉』というでしょう。

いい部分を差し置いて、近頃は花粉症の代名詞となり、気象予報の花粉状況の表示にも杉と思われるイラストが使われています。

神に与えられた木


そんな杉は日本の固有の樹種です。奈良時代に成立した日本の歴史書『日本書記』の神代の巻きには、スサノオノミコトが髭をぬくとそれは杉になり、胸毛を抜くと桧になり、お尻の毛を抜くとマキになり、眉毛を抜くとクスノキになったとあります。そしてスサノオノミコトはその木の使い方を人々に教えました。杉とクスノキは船、桧は宮殿、マキは棺桶。杉の特徴として水に強く、何よりも軽いというのが最大の特徴になります。

凡用性も高く、建築に関しては最高級材の天井板から、足場丸太や足場板、京都で言えば北山磨丸太や北山タルキなど、その用途は構造材から数寄屋の意匠材まで多種多様です。

また全国各地にその土地が育てた特色ある材が多くあります。秋田の秋田杉、静岡の天竜杉、奈良の春日杉・吉野杉、徳島の木頭杉、九州には日田杉・霧島杉・屋久杉、そして京都の北山杉。その他にも挙げればきりがないほど、各土地に特質のある材があります。その土地の特質のある材をその土地の建物に地産材として使う、それこそが日本の木造建築の文化を育ててきたと言えます。

杉の効能

そんな杉を、大きさや強度などの性能、色や年輪などの意匠での部分ののみでなく、優れた効用という特質の部分を説明していきたいと思います。

京都大学名誉教授(生存圏研究所)川井秀一先生の研究成果が2019年の朝日新聞(6月15日)に掲載されていました。それによると杉材には

☆大気汚染物質の吸収・吸着

☆優れた調温・調湿機能

☆大きな断熱・保温効果

☆香り成分によるリラックス効果

 


以上が期待出来るそうです。

杉材の二酸化炭素の吸着量はブナの5倍、桧の6倍もあり、ホルムアルデヒドも吸着することが確かめられたといいます。また、ストレスを与えると増える酵素α-アミラーゼ、緊張や興奮で活性化する交感神経活動も、杉板張りの部屋とそうでない部屋で測定した結果、貼っていない部屋で増えていたが、貼った部屋では減少、または増加しないことが実証され、香り成分が持つリラックス効果が確かめられたそうです。

同じ杉でも素材や施工方法によって効果は違う

同じ杉材でも、素材の条件によってその数値は異なります。人工乾燥より自然乾燥による材がより性能が高くなり、辺材よりも色の濃い芯材の方がその効果が高いそうで、板目側よりも木口側の方がその効果が高くなると実証されたそうです。

多くの文献やHPなどでも報告されていますが、杉の内装材を使った家に引っ越しをして喘息が軽くなったり、アトピーの症状が改善されたり、睡眠が深くなって体調がよくなったりした例も報告されています。

意匠・強度・効用を活かして木を扱うプロとして魅力を最大限に引き出す

杉材を選んで頂いたお客さんに、一番に言われるのは『暖かくなった』と言われます。施工している自分自身も一番大きく感じます。見た目・効用とも『柔らかく温かい』というのが杉の一番の特徴だと思います。数年前に比べて随分と木造の家、無垢の家というのが増えたと思います。ただ暖かい家にするなら分厚い断熱材を使用し気密を高める。それが本当に住む人のことを考えているのか、いささか疑問に思う施工方法ではなく、木を扱うプロとして、素材のちからを最大限に引き出し、本当に快適な家づくりをお客さんとともにつくりあげていきます。個性ある杉の特性を活かしながらバランスよく使い、最適な仕上げ方法や施工方法を提案し、杉のもつ性能に効用をプラスして、使えば使うほど、住めば住むほど、その魅力が見えてくる杉を使いこなしていきたいと思います。

何よりも戦後、大量に植林され、手入れが行き届いていない山に過剰に蓄積している日本の、そして地域の杉が、適切に使用されていくことで、材料としての杉だけでなく、山に適切に生きる杉としても人々に愛されていく、そんな杉の未来をつくっていきたいと思います。